抜歯と言われた犬歯を残せた話
85歳の男性患者さん
左上のブリッジ(③4⑤)の支えとなっていた犬歯が虫歯になり、歯の根元から折れてしまいました。他院では「抜歯してインプラント」と説明を受けたそうですが、「年齢的にもインプラント以外の方法はありませんか?」ということで当院を受診されました。


虫歯を取っていくと、写真のように歯の頭の部分が無くなってしまいました。
この状態ではブリッジを支える歯質がなく、多くの場合は抜歯になります。
しかし今回は、歯を支える骨がしっかり残っており、犬歯の歯根も十分に長かったため、最初から「歯を残す」ことを目標に治療を進めました。

ブリッジのダミーを外すと、その下の粘膜は真っ赤に炎症を起こしていました。このくらいの炎症なら2週間ほどで綺麗に治ります。粘膜が治るのを待つ間に犬歯の根管治療を済ませます。その後、歯冠長延長術を行いました。歯茎と周りの骨を少し整えて、埋もれていた歯根を外へ出してあげます。

上の写真は歯根に金属の土台を立て支台歯が完成したところですが、術前と比べブリッジを支えられる十分な歯質が確保できました。

あとは新しいブリッジを装着して、治療は終了です。
すべての歯が残せるわけではありませんが、歯を支える骨や歯根の状態が良ければ、「抜歯しかない」と言われた歯でも保存できることがあります。
一番守りたいのは永久歯
5歳の女の子です。
上顎左右の乳中切歯がむし歯で来院されました。レントゲンを撮ると、左右ともにう蝕は歯髄まで到達しています。右の乳中切歯は唇側歯肉に瘻孔があり、指で押すと膿が出ます。左の乳中切歯は歯髄まで感染していますが、排膿はなく保存できそうな状態だったので根管治療を行いました。


右上乳中切歯も一度は保存を試みて根管治療を行いましたが、次回来院時も排膿は止まらなかったので抜歯としました。
ここで「もう少し様子を見ましょう」は私はしません。
乳歯は残せるなら残した方がいい。
これはその通りです。
でも、感染がコントロールできていない乳歯まで無理に残すメリットは少ないと思います。
理由はシンプルで、これから一生使う永久歯が待っているからです。
乳歯の根尖部で感染が続くと、永久歯のエナメル質形成に影響することがあります。
生えてきた永久歯が白く濁ったり、黄色や茶色に変色したり、エナメル質が欠けたりへこんだりすることがあり、これをターナー歯(Turner’s tooth)といいます。
永久歯はやり直しがききません。
乳歯1本を残すことより、永久歯1本を守ることを優先したほうが良いと私は思います。
もちろん、根尖に感染がある乳歯をすべて抜歯するわけではありません。
年齢、歯根吸収の程度、永久歯の位置、症状の改善具合を見ながら保存できる歯は保存します。
ただ、瘻孔から排膿が続く乳歯や、根管治療を行っても感染が改善しない乳歯は、永久歯への影響を考えて早めに抜歯を選択することが多いです。
乳歯のむし歯は「そのうち抜けるから大丈夫」ではありません。
乳歯の感染は、痛みだけでなく、生えてくる永久歯にも影響することがあります。
早い段階で治療すれば残せる乳歯も多くあります。
だからこそ、お子さんのむし歯は痛みが出る前の受診が大切です。

大きな虫歯、でも削りたくない
21歳女性。右上7番に大きなむし歯が見つかりました。
レントゲンではかなり深いう蝕。
ただし、自覚症状は無く、歯髄診断も正常なため、歯の神経を残す方向で治療を開始。

まずはむし歯を除去。
すると・・・
思った以上に大きい。。。歯の中はかなり広範囲に感染していました。

こういうケース、個人的にはゴールドアンレーのような部分被覆修復を選びたくなります。
理由は単純で、奥歯は大きな咬合力がかかるから。
ただ、今回は21歳で年齢が若い。
ゴールド修復を行うとなると、どうしても健全な歯質を追加で削る必要があります。
さらに患者さんは、
「金属色はちょっと・・・」とのこと。
そこで、今回は歯質保存を優先して、コンポジットレジン修復を選択しました。

修復後、赤く染まっている部分が咬合接触部位。
レジンの上に強い咬合力がかからないように調整してあります。
レジン修復は歯を削る量を最小限にできる反面、
・欠ける
・摩耗する
・接着が劣化する
というリスクがあります。
ですので患者さんには、
「もし早期に欠けたりトラブルが出るようなら、その時はゴールドなどの間接修復を考えましょう」
とお話ししました。
若い患者さんの場合、
耐久性を取るか、将来の歯質保存を取るか。
結構悩むところです。
今回は「できるだけ削らない」を優先した選択。
長持ちしてくれることを期待しています。
歯の破折線 ~保存か、抜歯か~
40歳を過ぎてくると、
咬合力が強い、食いしばりや歯ぎしりの癖がある、
今回はそんな「破折線が入ってしまった歯」の症例です。
患者さんは60代の男性
「左上の奥歯が痛い」とのことで来院されました。
口の中を見ると、歯列全体に咬耗(歯のすり減り)
レントゲンを撮ると、

金属の詰め物を外してみると虫歯は無し。
しかし近心側に破折線があり、歯髄はすでに壊死していました。
おそらく破折線から細菌が侵入して、

破折線は深くなればなるほど歯の保存が難しくなり、
今回の症例もかなりシビアなケース。
ただ、患者さんの「歯を残したい」
治療はいつも通り、ラバーダム防湿下で根管拡大を行い、

今後は仮歯の状態で、最低半年は経過観察していきます。
予後が悪ければ最終的には抜歯になる可能性もゼロではありません
でも「やれることはやり切る」のが自分のスタイルなので、
ゆっくり急げ
20歳女性
検診で来院された患者さんです。
特に症状はなく、「痛いところはありません」とのこと。
念のためレントゲンを撮影すると、右上7、右下6番、7番に虫歯が見つかりました。

右下6番、7番はいずれも数年前に他院でコンポジットレジン修復を受けたとのこと。
レントゲンで見ると、2本とも修復物の下にかなり大きな虫歯が隠れていました。
虫歯は痛みが出る前に結構進行していることがよくあります。
今回もそのパターン。
まず右下6番の再治療を行うことに。

コンポジットレジンを外すとすぐに虫歯が出てきました。

虫歯治療は、”ゆっくり急ぐ”イメージで慎重に取り除いていきます。
急いで削ると歯髄(歯の神経)を傷つけてしまうことがあります。
う蝕検知液で染め出しながら虫歯だけを少しずつ取り除いていきます。
染める→削る→染める
これを繰り返していきます。

まだ、少し青く染まる部分がありますが、歯髄との距離を考えながら慎重に除去。
最終的にコンポジットレジンで修復しました。

術後のレントゲン写真を見ると、むし歯は歯髄にかなり近接していたことがわかります。

このくらいの大きなむし歯になると、個人的な印象ですが、10本治療して3本くらいは歯髄の保存が上手くいかず根管治療に移行するようです。
なので、定期的にレントゲンを撮影しながら経過観察を行う予定です。
今回の治療時間は70分。私もオジサンなので長時間の集中すると疲れますが、患者さんも長い治療お疲れ様でした。
それにしても、こういう気力と体力を使う治療をあと何年続けられるのだろう、、、と思う今日この頃です(笑)


